理事長ご挨拶

設立趣意

 大量のゲノム配列情報を基盤とした生命科学での研究開発は、欧米を中心に、爆発的な進展を示してきました。中でも健康・医療の分野においては、ゲノム配列情報を活用することで、がん、難病の分野を先頭に、個人の特性に応じた効果的な医療サービスの開発が、盛んに行われるようになっています。

 このような世界の現状に対して我が国では、ゲノム情報を効率的に利活用するための枠組み(人材、技術、情報基盤等)の構築に依然として遅れがあり、本分野におけるデータが、学術上、産業上の成果に十分に反映されていないという課題があります。枠組形成や環境整備上の遅れが原因となり、企業の研究拠点や研究者の海外移転が加速するという、わが国の産業の将来に重大な影を落とす事例も、散見されるようになってきました。

 しかしながら、私たちは、現在が、このような状況を巻き返す好機である、と考えています。その大きな理由は、昨今の、単一細胞解析等の精密解析や多角的解析を可能とする大規模計測手法の大きな革新です。今まさに、ゲノム研究は、ゲノムの配列情報を中心とした構造の科学から、1細胞レベルの遺伝子発現を中核とした機能の科学へと変わる転換点を迎えつつあります。こうした「構造から機能へ」の変化は、遺伝子変異がどのように疾患につながるのか、そのメカニズム解明を大きく進め、ひいては、遺伝子変異に対応したきめの細かい新しい治療法の開発につながっていくものです。これはまさに、診断は出来ても治療法がないという、現在のゲノム医療に対する批判にこたえる方向での変化と言えます。

 私たちは、この好機をとらえ、ゲノム研究における構造から機能への変化を先取りして、世界水準でのゲノム機能研究に取り組みやすい基盤を整備し、ゲノム医学をはじめとする様々な分野における研究開発を加速、またそれを次世代に担う人材育成に資する環境を構築することで、日本のゲノム研究の発展に大きく寄与したいと考えております。

 この度、ゲノム機能解析、ゲノム情報解析の世界最先端に位置する研究機関が集中する「柏の葉」の地に、企業や研究機関等に対し、ゲノム情報へ一元的にアクセスすることを可能にする安全な環境と、ゲノム情報の解析基盤を提供することを目的とした「柏の葉オーミクスゲート」の構築を行うこととしました。これにより、我が国のゲノム研究開発の進展に寄与し、さらには、世界の先端研究領域をけん引していくことを目指します。この目的の達成に向けて、積極的かつ継続的に活動する観点から、広く産学官の連携をめざしつつ、多様な研究開発の場として、ここに、「一般社団法人柏の葉オーミクスゲート」の設立を発起する次第であります。

菅野 純夫
令和2年4月
一般社団法人 柏の葉オーミクスゲート
理事長(設立時代表理事) 菅野 純夫